2018年4月1日(月) 札幌弁護士会副会長に就任しました。

 1年間の任期中、弁護士会の活動を通じて、弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現に寄与できるよう、しっかり努めたいと思います。

 とくに、憲法改正に向けた動きが本格化してきており、弁護士会としても、憲法によって権力者の権力濫用を抑えるという立憲主義を固持する立場から、市民の皆さんに、憲法改正に関する正確な情報を、市民集会やマスコミを通じて、適時提供していく予定です。

 日本は今、戦争ができる国となるか、あくまで恒久平和主義を貫いていくか、大きな岐路に立っており、私たち国民は、将来の国のあり方について重大な選択を迫られています。憲法改正問題にあまり関心のない人もいるかもしれませんが、憲法改正問題に無関係の人は一人もいません。

 憲法9条に自衛隊を明記する自民党の加憲案については、日弁連でも活発に議論されており、当会においても先日勉強会があり、私も参加して各論点について勉強させていただきました。

 憲法に自衛隊を明記することの是非については、弁護士の間でも賛否両論があります。

 しかし、懸念される東アジア(北朝鮮や中国)の不安定な国際情勢に対しては立法的対応のほうがかえって柔軟性があり、憲法にわざわざ自衛隊を明記する意義はないように思います。冷戦時代から核の抑止力でかろうじて均衡が図られてきましたが、それさえも最近危うくなってきている状況を見ますと、暴力や武力という非平和的手段では、平和という目的を達成することができないことは自明であり、このような混沌とした危うい情勢だからこそ、平和への指針として世界に誇るべき9条を将来の子孫に受け継いでいきたいと思います。

 殊に、9条は、日本国憲法の核とも言うべき条文であり、太平洋戦争で筆舌に尽くしがたい悲惨な体験をした日本人の叫び声であり、他の条文とは異なった重みを持っています。戦後70年間、とにもかくにも日本が戦争に巻き込まれなかったのは、9条のお陰であるという分析もあります。今この不安定な情勢においてこそ、不戦の誓いを新たにし、平和国家として国際社会をリードしていく役割が日本にはあると思います。

 一方で、2015年の安保法制で集団的自衛権を行使できることになりました。安保法制によって自衛隊役割は質的に変容したと言ってよいでしょう。

 憲法学者や我々法律家の大多数が、安保法制は憲法違反であると考えていますが、憲法に自衛隊が明記されるということは「集団的自衛権を行使できる自衛隊」を憲法で認めるということを意味します。

 また、法律は「後法優位の原則」があるため、自衛隊を憲法に明記すれば、「戦争」や「武力による威嚇または武力の行使」を放棄した9条1項、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」、「国の交戦権は、これを認めない」という9条2項が空文化することになります。国民の多くは法律家ではありませんから、この「後法優位の原則」を知りません。ですから「自衛隊を加憲しても、9条1項と2項は残るのだから、たいした影響はないだろう」と誤解します。

 「集団的自衛権を行使できる自衛隊」が憲法で認められれば、アメリカが海外で戦争をするときに、日本の自衛隊が戦争参加を断る理由はなくなります。

 北朝鮮とアメリカとの首脳会談が近く行われるようですが、その結果がどうなるかを予想できる人は誰もいません。なにせ会談に臨むのはあのトランプ氏ですから…

 アメリカが北朝鮮に対し武力攻撃を開始すれば、自衛隊も集団的自衛権を行使してアメリカの後方支援などを行うことが予想されます。

 北朝鮮には200基以上のミサイル発射台があり、その全てではないとしても、かなりの数のミサイルが、日本の領土に標準を合わせているはずです。もちろん、約50基ある各地の原子力発電所も標的になっているでしょう。

 これに対し、自衛隊の地対空迎撃ミサイルシステム(PAC3)は全国で35基しか配備しておらず、北海道には千歳の基地に1基あるのみです。PAC3の射程距離はわずか50㎞ですから、泊原発を狙った北朝鮮の弾道ミサイルに、千歳のPAC3の迎撃ミサイルはそもそも届かないのです。

 これが今の日本の現状です。ですから、憲法改正問題に無関係でいることができる人は一人もいません。戦争になって海外にすぐに移住できる人は別かもしれませんが…

 私は、栃木県から札幌にやってきましたが、この街が大好きです。暮らしやすい自然豊かな北海道を、平和な世の中を、子どもや孫たちの世代に引き継いでいく責任が私たち大人にはあると思います。

 ですから、弁護士として、また一人の大人として、憲法改正問題に無関心でいることはできません。

清水 智