2018年5月3日(木) 憲法記念日にあたって

 日本国憲法が制定されてから71年目を迎えました。この間、世界と日本の情勢は目まぐるしく変化しており、まだしばらく続く気配ですが、憲法の果たしてきた役割をあらためて考えてみました。

 戦争と武力の放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認を定めた憲法9条のおかげで、この70年余り日本は戦争に巻き込まれることなく、なんとか平和を保ってきました。戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争といくつかの戦争が起きましたが、アメリカからの協力要請に対して、日本は9条を理由に参戦を断ることができたからです。

 自民党のいわゆる自衛隊加憲論について、安倍総理は「現状を追認するだけ」と説明をします。この説明を聞いた多くの国民は「自衛隊は実際に昔から活動しているのだし、9条はそのまま残るのだから、現状と変わらないだろう。」と思うはずです。

 しかし、法律家から見ると、総理の説明には看過しがたい詭弁が2つ含まれてます。

 1点目として、2015年9月に安保法制が成立した結果、今の自衛隊は、集団的自衛権を行使できるようになりました。つまり、自衛隊の役割が変容し、アメリカと共に海外で戦争に参加できるようになったのです。したがって、憲法に明記される「自衛隊」とは「安保法制によって海外で戦争のできる自衛隊」というのが、素直な法律解釈となります。

 2点目として、法律の世界では「後法優先の原則」という考え方があります。先に出来た法律と、後に出来た法律の内容が矛盾するときには、後に出来た法律が優先されるというルールです。したがって、自衛隊加憲論によっ戦争と武力の放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認を定めた憲法9条が死文化するおそれがあります。

 自衛隊を憲法に明記する改憲が行われると、日本が戦争に巻き込まれる危険が高まるというのは、以上の理由からです。

 今の不穏な東アジア情勢を見渡すと、自衛隊はまだ必要であり、個別的自衛権(つまり武力攻撃を受けた場合に必要最小限の範囲で防衛のため武力行使ができる権利)は維持すべきでしょう。また、最近、頻繁に起きる大規模自然災害での救助活動で自衛隊は活躍しています。

 しかし、日本が他国から侵略攻撃されたときに専守防衛するのと、トランプ氏が舵を取るアメリカと一緒に海外で戦争をするのとは、全く話が違ってきます。他国に戦争を仕掛けるのであれば、自分の国が戦争を仕掛けられるても文句は言えません。

 そういうわけで、集団的自衛権を行使できる自衛隊を憲法で認めることは、日本が戦争に巻き込まれて他国から攻撃を受けるリスクを大きく高めることになるのです。

 4月に行われた日米首脳会談では、アメリカ側が「米朝首脳会談が決裂すれば、軍事攻撃に踏み切るしかない」と日本側に伝えていたそうです。アメリカが北朝鮮に軍事攻撃を開始すれば、約250基と言われる北朝鮮のミサイル発射台から、周辺国に核弾頭を搭載したミサイルが飛んでくる可能性があります。これに対し、日本国内に配備した弾道ミサイル迎撃システムはわずか35基しかありません。北海道では、わずか1基が千歳基地に配備されているだけです。

 私たちは、平和を希求するだけでなく、勝ち取るために行動しなければならないと思います。私たちは、今、平和を確立できるか、戦争に巻き込まれるかの岐路に立っており、憲法改正問題に対し私たちがどのように反応するかは、その試金石になるように思われます。

清水 智