札幌市教育文化会館において、脳損傷友の会「コロポックル」主催で、「障害者の親なき後の自立生活支援」をテーマにしたシンポジウムが開催されました。
コロナ禍にもかかわらず、多くの方が参加され、高次脳機能障害を負った方の自立生活をどうやって支えていくか、について実際の経験談や介護事業所の実情などが報告されました。
私は「成年後見人の役割」を講演しました。今回、その内容について紹介したいと思います。
障害を持つ子供の生活支援は、多くの場合、その親が行なっています。
もし、親自身が高齢や病気などで子供を支援することができなくなった場合、誰が子供の支援をしてくれるのか、という親の不安は、年を重ねるごとに増大します。これが、「親なき後」問題です。
対策の一つが「成年後見制度」です。
「成年後見制度」とは、認知症、知的障害、精神障害などによって、物事を判断する能力が十分でない方について、その方の権利を守る援助者を選ぶことで、法律的に支援する制度であり、後見、保佐、補助の3種類があります。
では、「親なき後」に一体何が問題となるのでしょうか。そして、成年後見制度がどのように約に立つのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
① 生活資金を維持できるか
高齢者と違い、障害者のケースでは、支援対象者の年齢に幅があり、長期にわたる支援が必要となることがあります。
ところが、生活資金や親が遺した財産を、障害のある子どもが自分自身で適切に管理することは困難な場合があります。しかも、購入意欲を刺激し続けるメディアや広告、宣伝にあふれた現代社会に暮らしていては、浪費して財産を枯渇させてしまう危険もあります。
このため、子どもが生きている間に、生活資金や親の残した財産を使い果たしてしまう、という不安が残ります。
この点、成年後見人は、障害を持つ子どもの法定代理人として、身上監護と財産管理を担当し、財産の支出は子どものために必要かつ相当な範囲で行います。成年後見人が、子どもの財産を、投資などのリスクを伴う運用に回したり、親族に贈与したり貸し付けたりすることは、原則として許されていません。
成年後見人による財産管理は厳しく行われますので、子どもの財産が散逸したり浪費されたりする心配はありません。
② 消費者被害に遭わないか
施設に入所する高齢者と比べると、障害者は、在宅で生活するケースが多く、そのため、消費者被害に巻き込まれるリスクが高いと言えます。
ですが、成年後見人が選任されると、ご本人のした契約は無効ですし、ご本人の預金通帳は成年後見人が管理しますので、消費者被害に遭う危険はなくなります。
③ さまざまな契約を締結できるか
「親なき後」に、自立支援サービスの利用、施設への通所・入所が必要になったり、今後の長い生活を維持するために不動産を売却しなければならなくなるかもしれません。
しかしながら、重い精神障害や知的障害があると、子どもが一人で契約をすることが困難です。
この点、成年後見人は、ご本人の法定代理人として、さまざまな契約をすることができます。
④ 子どもが生きている間ずっと支援してくれるのか
「親なき後」も子どもの生活はずっと続きます。その間、支援が途切れたり、途中で終わってしまうことがないか、という不安があります。
法律上、成年後見人の仕事は、子どもの判断能力が回復するか、亡くなるまで続きます。
もし、成年後見人が高齢などで仕事を続けることができなくなれば、裁判所は、新たな後見人を選任してくれるので、支援が途切れる心配はありません。
⑤ ご本人の意向を酌んだ支援をしてくれるのか
障害と言ってもその程度には幅があり、自分の意向や希望を伝えることができる方も多く、そのため、子どもの意向をきちんと酌み取りながら、その意思を尊重した支援が求められます。
成年後見制度は、ご本人の判断能力に応じて、後見・保佐・補助の3種類の制度があり、保佐と補助は、制度上、後見よりも、ご本人の意思を尊重し、心身の状態や生活状況に配慮しながら、ご本人を支援する仕組みとなっています。
以上見てきたように、「親なき後」問題には、成年後見制度が非常に有効です。
しかしながら、成年後見制度は制度発足から20年が経ちますが、実はあまり普及していません。
というのも、弁護士や司法書士などの法律専門職が成年後見人になると、ご本人の財産の中から報酬を支払わなければなりません。後見人の仕事の内容やご本人の財産状況等を総合的に考慮して、家庭裁判所が決めますが、毎月2~3万円程度と言われています。
また、誰が成年後見人になるかは、最終的に家庭裁判所が決めますので、親の意に沿わない人が成年後見人になる可能性もゼロではありません。
さらに、成年後見制度はお試しの利用ができない上、上述したとおり、いったん開始されるとご本人が亡くなるまで続きます。途中で辞めることができません。
このように使い勝手があまりよくないので、成年後見制度を利用したいと思っても、躊躇してしまうのだと思います。
近年、最高裁判所は、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任するという運用を開始し、また、専門職後見人の報酬の基準を明確にする取り組みを開始しました。
また、市民後見人の養成に力を入れている自治体も増えてきています。こうした運用と取り組みによって、成年後見制度がもっと普及することに期待したいと思います。
清水 智