知らないと大変なことになるかも!?遺言のススメ

はじめに

 本格的な高齢者社会を迎えた日本では、いわゆる「終活」への意識が高まり、遺言の重要性も広まってきました。

 しかし、まだまだ「遺言なんてわざわざ作る必要はない」「我が家は財産も多くないし、家族も仲良しだから大丈夫」と思っている方も多く見受けられます。

 当事務所でも相続に関する相談が増えていますが、その中には「遺言がきちんと残っていれば、こんな大変なトラブルにはならなかっただろうに‥」と悔やまれるケースが多くあります。

 遺言を残さなかったばかりに遺族が何年も骨肉の争いに巻き込まれるケースは、テレビドラマの中の話ではなく、ごく普通の家庭でも起こるのです。揉めるか揉めないかは遺産の多寡とはほとんど関係がないからです。

 また、争いが全くないとしても、遺言がなければ、ご本人の預金を解約するだけでも大変な手間がかかってしまいます。

 遺言をしっかり作っておくことは「終活」の大きな柱であるばかりでなく、残される家族や親族に対する最低限の責任であることは今や常識となりつつあります。

遺言を遺しておかないとどうなる?

 被相続人が亡くなると、相続が開始します(民法882条)。

 被相続人が遺言を作成していれば、原則として、その遺言に記載されているとおりに遺産を分配すれば良いですが、遺言を作成していないと、相続人全員で話し合って遺産を分配しなければなりません。これを「遺産分割」といいます。遺産分割の完了がゴールだとすれば、ゴールまで長く険しい道のりが待っています。

 まず、遺産分割は、どのような手順で進むのでしょうか。

 遺産分割におけるポイントは、

 ① 誰が ② 何を ③ どのように分けるか

 の3点となります。以下、3点をそれぞれ見ていきましょう。

① 誰が?-相続人の確定

 一部の相続人を除外して行われた遺産分割の協議は、法律上、無効となります。そこで、相続開始後にまず、出生から死亡時までの被相続人の戸籍謄本などを取り寄せて相続人の調査をし、全ての相続人を確定する作業が必要となります。

 相続人の調査は、ご自分で行うことも可能ですが、被相続人の出生から死亡時までの戸籍を順に取り寄せるには、戸籍を読み解く技術が必要です。とくに、被相続人の方が高齢で、しかも、転々と本籍を異動しているような場合には、戸籍の取り寄せと解読に多大な労力と時間がかかります。

 ちなみに、戸籍謄本は1通金450円、除籍謄本は1通金750円、戸籍の附票は1通金200円~300円、住民票は1通金300円~350円、その他通信費がかかります。

 被相続人の戸籍を過去に遡って全て取り寄せた後は、被相続人を中心に、相続人の本籍・住民票上の住所を記載した相続関係図の作成が続きます。

 相続人の調査は、遺産の分割、預金の解約、遺産の名義変更全てにおいて必ず必要となりますが、遺言があれば、預金の解約や遺産の名義変更するために、相続人の調査をする必要はありません。

② 何を?-遺産の確定

 次に、相続の対象となる遺産の範囲を確定しなければなりません.

 遺産は、生前、被相続人が所有していた財産ですから、遺産の範囲の確定は簡単なようにも思えます。

 ところが、遺産の一部を生前に譲り受けたと主張する相続人がいたり、名義上は被相続人の財産となっているものの、実際は他の人の財産だったりすることがありますので、必ずしも簡単に確定できるわけではないのです。そこで、どこまでが遺産で、どこからがそうではないのかを法律上明確にしなければなりません。

 また、遺産には、不動産や預金、株式等のいわゆるプラスの財産だけではなく、負債や契約上の債務といったマイナスの財産も含まれ、遺産分割の対象となりますので、負債についても調査しなければなりません。

 この点、遺産目録のついた遺言を作成しておけば、相続開始後に相続人が遺産の範囲を調査し確定する手間が省けます。

③ どのように分けるか?ー遺産分割

ア まずは話し合いで・・・遺産分割協議
 相続人は、民法で定められた法定相続分に従って、遺産を分割することになります。何をどのように分けるかについては、相続人全員で協議して決めます(これを「遺産分割協議」といいます。)。遺産分割が成立するためには、相続人全員の合意が必要となりますので、一人でも反対の相続人がいて協議がまとまらないときには、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをせざるを得ません。

イ 遺産分割協議がまとまらないときは・・・遺産分割調停
 相続人全員の遺産分割の協議がまとまらない場合には、遺産分割調停を家庭裁判所に申し立て、調停の中でさらに協議を続けることになります。

ウ 遺産分割調停がまとまらないときは・・・遺産分割審判
 もっとも、家庭裁判所における遺産分割調停もあくまで話し合いによって遺産分割を行うものですから、相続人全員の意見が一致しなければ遺産分割はまとまらないことになります。
 遺産分割調停でも話がまとまらない場合には、審判手続に移行し、裁判所に分割の内容を決めてもらうことになります。

 当事務所がかつて担当した遺産分割案件の中には、相続人間の感情的な対立が激しく、相続開始から遺産分割が完了するまで約8年の歳月を要した案件もありました。この案件は、遺産が特別に多かったわけでもなく、相続人の人数も3人しかいませんでした。

 ここまで長期間を要しないとしても、遺産分割協議・調停で数年かかることは決して珍しくありません。例えば、被相続人の介護を担当した相続人は、担当しなかった相続人に対して寄与分(民法904条の2)を主張することがありますし、生前に被相続人から住宅購入資金や学費を援助してもらった相続人がいれば、こうした援助を受けなかった相続人は、特別受益(民法903条)の主張をしてくることでしょう。

 こうした主張が出てくると、遺産分割協議はスムーズに進まず、相続人間の感情的な溝は、日を追う毎に深くなってきます。

 こうして、いわゆる「争族」になってしまうわけですが、そのときの相続人の精神的・肉体的・時間的負担の大きさは、想像を超えるものです。

 解決まで8年を要した案件でも、もし、被相続人が生前にきちんとした遺言を遺していたならば、早ければ数か月で解決していたと思いますし、相続人間の感情的な対立も生じなかったかもしれません。

遺産分割がまとまらないと預金も下ろせない!

 このように、遺言がないと、①相続人の確定、②遺産の確定、③遺産分割という3つの手続を踏まなければなりません。

 金融機関が相続開始を把握すると被相続人名義の預金口座はロックされてしまい、以後、通帳やキャッシュカードで払い戻しをすることができなくなります。しかしながら、これまでは遺産分割がまとまらなくても、金融機関によっては、相続人の法定相続分に応じて被相続人名義の預金の払戻しに応じてくれました。

相続実務に大きな影響を与えた最高裁平成28年12月19日判決

 ところが、最高裁判所平成28年12月19日判決は「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」という判断をしました。

 つまり、遺産分割がまとまるまでの間は、相続人は、一切、被相続人の預金に手を付けられないことを意味します。その後、最高裁は、定期預金と定期貯金についても、同じ扱いになると判断しました(最高裁判所平成29年4月6日判決)。

 その結果、被相続人が亡くなって相続が開始した時点で、手持ちの現金がなければ、遺された配偶者は、葬儀費用も当面の生活費も足りなくなるという事態に陥る可能性があります。

 このような事態を回避するために、家庭裁判所に仮分割の仮処分を申し立てるという手段がありますが、弁護士に依頼しなければ難しいでしょう。また、裁判手続ですので、弁護士費用の負担も軽くないでしょう。

 相続人間に争いが全くないケースであっても、被相続人が高齢であったりすると相続人調査に時間を要してしまい、遺産分割協議がまとまるまで2~3か月かかることがあります。もし、相続開始時に手持ちの現金がなければ、葬儀も当面の生活もままならないという危険に陥ることは変わりません。

 これに対し、遺言が作られていれば、相続開始後に受遺者は、遺言書、被相続人の除籍謄本、解約のための必要書類等を金融機関に提出すれば、預金の払戻しや解約ができますので、預金を下ろせないという不測の事態に陥る心配もありません。これらの必要書類を提出すれば、金融機関毎に、即時に払戻しや解約に応じてくれることもありますし、払戻しや解約に1~2週間程度かかる場合もあります。

遺言のメリット

 以上のように、遺言には、被相続人の戸籍を出生まで遡って取り寄せて相続人を調査したり、遺産の範囲を調べたり、相続人全員に連絡を取って遺産分割協議をしなければならないという遺族の負担を大幅に軽減できるというメリットや、親族間の争いを未然に予防するというメリットのほかにも、次のようなメリットがあります。

 すなわち、長い間努力して築いてきた財産を自分の意思に従って分けることができるという点です(ただし、遺留分により修正される可能性はあります。)。代々続いた土地と建物は長男に相続させたいとか、長年介護してくれた末っ子に預金を残したいとか、自分の意思を遺産の分配に反映させることができるのです。また、相続人以外の人にも遺産をあげることもできます(これを「遺贈」といいます)。

言書を書く-遺言の種類ー

 遺言を残すことを決意された場合、次に問題となるのがその形式です。遺言は偽造を防止するために厳格な要式行為(一定の方式に従って行わないと効力がない行為)となっており(民法960条)、遺言書の作成にあたっては、その形式についての知識が不可欠です。

 民法上、普通時にすることができると定められている遺言の形式は以下の3つです。

方式内容メリットデメリット
自筆証書遺言(民法968条) 遺言を残す人が、その全文、日時、氏名を自署し、押印することによって作成される遺言です。 簡便、手軽。 要式を間違えると無効になる。偽造・破棄されるおそれがある。
公正証書遺言(民法969条) 一定の要式に従い、公証書という公文書の形式で作成される遺言です。 公証人という法律の専門家が関与するため、遺言の効力が問題となる危険性が少ない。 作成の手続きがやや面倒。公証人と証人に内容が知られてしまう。
秘密証書遺言(民法970条) 公証人や証人に封印した遺言書を提出して、遺言の存在を認めてもらい、内容を秘密にしたまま遺言書を保管する方式です。もっとも、近年あまり利用されていません。 内容を秘密にできる。 内容は自分で作成するため、要式を間違えると効力が問題となる。手続きがやや面倒。

では,どれを選ぶのが望ましいでしょうか。

自筆証書遺言のメリットとデメリット

 自筆証書遺言のメリットは、上の表にもあるとおり、作成が簡便かつ手軽であるという点にあります。最近では、自分で自筆証書遺言を作成できるキットなども販売されており、手軽かつ安価な方法として人気があるようです。このようなキットを利用するのも一案といえます。

 しかしながら他方で、自筆証書遺言は、法律家が関与しないで作成されるため、複雑な内容の遺言には不向きです。

 また、例えば、遺言で、自宅を特定の家族に相続させたいとします。通常は、住所を併記して『●●市●●町●番●号の土地と建物は、●●に相続させる。』などと記載すると思います。そして、ここで記載する住所は、郵便物の受け取りに使う住所であることが多いでしょう。しかし、この住所の記載だと、相続登記ができないおそれがあります。というのも、登記申請には、地番という番号で不動産を特定することが必要であり、この地番と郵便の受け取りに使う住所(「住居表示」といいます。)は異なっていることがあるからです。もし、地番と住居表示が異なっていると、遺言に基づいて相続登記をすることができず、結局、登記するためには相続人全員の合意書等が必要となり、せっかく遺族の負担を軽くするために遺言を残しても、煩雑な手続きが必要になってしまいます。

 このように、自筆証書遺言には手軽さゆえのデメリットもあるのです。

 

公正証書遺言のメリットとデメリット

 公正証書遺言のメリットは、公証人という法律専門家が要式をきちんと確認しながら作成するので、自筆証書遺言のように方式違背で無効となる危険はほとんどありません。また、遺言書原本が公証役場に保管されるため、偽造や紛失のおそれもありません。このように、公正証書遺言は最も安全確実な遺言といえるのでしょう。

 他方で、デメリットとしては、原則として公証役場に行って作成しなければならず、作成費用もかかってしまう点が挙げられます。

また、公証人は遺言の内容についてある程度相談に乗ってはくれますが、さすがに遺留分や相続税にまで配慮はしてくれませんので、どのような内容の遺言を作るかは、結局、遺言者ご自身で決めなければなりません。

遺言作成のポイントー遺留分と相続税への配慮ー

 自筆証書遺言でも公正証書遺言でも作成する際には、ご自身の意向を存分に反映させつつも、2点ほど配慮すべきポイントがあります。

 1点目は、遺留分への配慮です。

 遺留分とは、相続に際し、遺産の中から一定の相続人に対して法律上必ず留保されなければならない一定の割合を言います。兄弟姉妹以外の相続人は、相続が開始した場合、遺留分に相当する利益を遺産から取得できる権利を有しています(民法1028条)。

 例えば、被相続人が、3人の子どものうち1人に全財産を相続させる、という内容の遺言を生前に作成したとします。この場合、残りの2人の子どもは、相続開始後に、全財産を相続した1名に対し、それぞれ遺産の8分1に相当する金額を支払うよう求めることができ、これを遺留分減殺請求といいます。

 遺留分減殺請求をするかしないかは、相続人の自由ですが、遺留分減殺請求をすると、相続人間でトラブルとなるおそれがあります。先の例で言うと、遺産の中に不動産が含まれていたりすると、その不動産をいくらと評価すべきかで争いになる可能性があります。そうなると、遺産を相続した子どもは、遺留分を巡る兄弟たちとの紛争に図らずして巻き込まれる形となり、良かれと思って作った遺言が仇となってしまいます。

 ですから、遺言を作成する際には、遺言者の意向を最大限に尊重しつつも、遺留分にも配慮することが必要です。

 2点目は、相続税への配慮です。

 相続税法の改正により、平成27年1月1日以降、基礎控除額が「5000万円+(法定相続人の数×1000万円)」から「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」に引き下げられました。その結果、相続税を納めなければならないケースが増えました。

 さらに、上記の改正によって、税率も上がったことから、納めなければばならない相続税額も増えました。

 したがって、遺言を作成するときには、相続税にも配慮しなければならないケースが多くなってきているということです。

 相続税の申告に際しては、小規模宅地等の特例や特定事業用宅地の特例を活用して相続税の課税価格を減額したり、配偶者控除(配偶者の税額の軽減)を受けて納税額を減らすなどの節税ができる場合があります。

 このため、相続税の申告が必要なケースでは、どのような遺言を作成するかで、納税額が大きく変わることがありますので、相続税への配慮が必要となります。

まとめ

 以上ご説明したとおり、いわゆる「争続」が起きないよう、きちんとした遺言を作成しておくことをお勧めします。また、相続税の申告を要するケースでは相続税に配慮しておくことも重要です、当事務所では、会計事務所と提携しておりますので、法律面はもちろん税務面でも適切なアドバイスができます。

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