交通事故による高次脳機能障害を弁護士が徹底解説|被害者が知っておくべき8つのポイント

10 高次脳機能障害の裁判例・研究(随時更新)

 交通事故(脳外傷)による高次脳機能障害に関する新しい裁判例や研究を随時紹介していきます。

 「交通事故による高次脳機能障害」のページに戻る。

裁判例

裁判所 大阪地裁平成29年2月8日判決(交民集50巻1号139頁)
争点と判断  被害者が運転する原付自転車と加害者が運転する自動車が衝突した交通事故です。
 被害者は、介護サービスの会社にケアマネージャーとして勤務していた47歳女性です。
 被害者は、自賠責保険の後遺障害等級認定手続で、高次脳機能障害(記憶障害・遂行機能障害)が「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」として後遺障害等級3級3号、顔面神経麻痺に伴う口のゆがみが「外貌に醜状を残すもの」として後遺障害等級12級14号の併合2級に認定されました。
 裁判では、将来介護費が争点の一つとなりました。
 裁判所は、被害者には、ADL(日常生活動作)は自立しているものの、食事の準備・片付けや更衣動作の一部には声かけや介助を要し、屋外歩行には手つなぎや歩行器を要し、入浴動作や階段昇降や公共交通機関の利用には大部分介助を要するほか、車いすは自力で操作することができないなど、相応の介護の必要性が認められるとして、平均余命である39年間、職業介護人による介護を前提に日額6,500円(合計4037万円)の将来介護費用を認めました。
コメント  重い後遺障害が残った場合、家族や職業付添人(ヘルパー)による介護が将来にわたって必要となります。
 このため、被害者は、損害の一つとして将来介護費用を請求することになります。
 将来介護は、平均余命(男性79歳、女性86歳)まで必要ということで計算されるため、比較的高額になる傾向にあります。
 そのため、裁判では、将来介護費用の日額が激しく争われることが多く、被害者側の弁護士としては、ご家族の介護の負担の重さ・大変さを具体的かつ詳細に立証して、裁判官を説得していくことになります。
 さらに、他の裁判例も参考にしながら、将来介護費用を請求していきます。
 今回紹介した裁判例は、高次脳機能障害だけでなく、他の症状も併存したケースであること、症状の重さからすると「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として後遺障害2級に認定されてもおかしくないことから、後遺障害等級3級にもかかわらず、日額6,500円という比較的「高め」の将来介護費用が認められたものと解することができます。
裁判所 東京地裁平成30年9月26日判決(自保ジャーナル・第2034号)
争点と判断  被害者が同乗する自動車が、交差点を右折中、対向車線を走行してきた大型貨物車と衝突した交通事故です。
 被害者は樹木医として働く66歳男性です。
 被害者は、交通事故後、頭部外傷による頭痛や足元のふらつきに加え、段取りや要領が悪くなるという、高次脳機能障害の症状が残存しました。
 自賠責保険の認定手続では、頭痛の症状が後遺障害等級第12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と認められるにとどまったことから、被害者は、脳外傷による高次脳機能障害として後遺障害等級5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することのできないもの」に当たると主張して裁判を起こしました。
 裁判所は、交通事故によって被害者の頭部に外力による衝撃が加わったことは認めつつも、事故当日に救急搬送された病院では、意識障害はないとされていること、事故当日に実施したCT検査では頭部の両側に薄い硬膜下液体貯留を認める以外には、外傷由来の異常所見は認められないことから、脳外傷による高次脳機能障害の発症を否定しました。
コメント  この事故は勤務中に発生したことから労働者災害補償保険が適用となりました。労災保健では、被害者の高次脳機能障害が認められ、後遺障害等級5級が認定されました。
 ところが、自賠責保険と裁判所は、労災保険とは異なる判断をし、被害者の症状が脳外傷による高次脳機能障害とは認めませんでした。
 この案件では、救急搬送された病院では意識障害はないとされたものの、被害者の妻によれば、事故後1週間くらいボーッとぼんやりした軽度意識障害があったとのことであり、画像所見についても、事故当日のCT検査で、頭部の両側に薄い硬膜下液体貯留が認められ、事故後の約3か月後に行った画像検査でも、二次的に発症したと思われる慢性硬膜下血腫や脳室拡大が認められました。
 さらに、WAIS-ⅢではIQの顕著な低下も認められていますので、高次脳機能障害として認められるべきケースであり、裁判所の判断は厳しすぎるという印象です。
 このとおり、画像所見があっても、裁判所は、必ずしも高次脳機能障害を認めるとは限らないのです。
裁判所 京都地裁平成30年9月3日判決(自保ジャーナル・第2033号)
争点と判断  被害者が助手席に同乗する被害車両が赤信号で停止していたところ、その後方から時速約60㎞で走行してきた加害車両に追突された交通事故です。
 被害者は大学生の20歳男性でした。
 被害者は、交通事故によって、左半身不全麻痺、注意機能障害、記憶機能障害、性格変化(易怒性、易疲労性、抑うつ気分)、排尿障害等の症状が残存しましたが、自賠責保険の後遺障害等級は非該当でした。
 そこで、被害者は、脳外傷による高次脳機能障害が後遺障害等級第5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することのできないもの」に当たると主張して裁判を起こしました。
 裁判所は、① 頭部外傷(つまり脳外傷)を認めることはできない、② 事故後の意識障害もなかった、③ FDG-PET検査は一部びまん性脳損傷として典型的な所見を示したが、他のいずれの画像検査でも明らかな器質的損傷は認められない、④ 被害者は、交通事故から約6ヶ月半という長期間、高次脳機能障害の典型的な症状についてのみ全く医師に申告しないというのは、不自然であり、高次脳機能障害の典型的な症状は、交通事故から約2年後に発生ないし顕著に増悪しており、高次脳機能障害の典型的な経過に合致しない、などの理由で、本件事故により高次脳機能障害を発症したと認めることはできないと判断しました。
コメント  ①の頭部外傷の点について、裁判所は「本件事故の態様等は、本件事故による衝撃の程度が大きかったことや、その衝撃が頭部に及べば頭部外傷が生じる可能性があることを推認させるにとどまり、実際に衝撃が原告の頭部に及んだことを認めるに足りるものとみることはできない」と述べています。
 しかし、被害車両は、時速60㎞の速度で加害車両に追突されており、追突の衝撃で15mも前に押し出され、運転席及び助手席の座席のリクライニングが後方に倒れ、いずれの自動車も廃車となりました。
 助手席に同乗していた被害者は、衝撃に備えることも身構えることもできないまま、背後から強い衝撃を受けていますので、頭部が後部座席に激しくぶつかり、前後に大きく振られたことは想像に難くありません。
 したがって、裁判所の頭部外傷に関する判断には、大いに疑問が残ります。

 ②の意識障害の点については、被害者は事故後自力で車外に出て、地面に座り込んだ状態で加害者と会話をしています。衝撃を受けてから車外に出るまでのごく短時間を除いて事故の状況を記憶していました。こうした認定事実を前提に、裁判所は意識障害を否定しています。

 ③の画像所見については、CT・MRIを重視するという近年の裁判所の判断傾向そのものです。FDG-PET検査は、ブドウ糖に近い成分の検査薬(FDG)を体内に注射して脳の代謝量を測定する検査法ですが、自賠責保険は、こうした検査を「補助的な検査所見にとどまる」として画像所見として重視しておらず、裁判所も同様です。

 ④の症状の経過について、自賠責保険は、「急性期には重篤な症状が発現していても、時間の経過とともに軽減傾向を示す場合がほとんどである。」としています。つまり、事故直後が一番症状が重く、時間の経過とともに改善するという経過を辿ることが多いという考えです。裁判所は、本件交通事故の被害者が、事故から6か月半のもの間、医師に高次脳機能障害の症状を訴えていないことが不自然であり、高次脳機能障害の典型的な経過に合致しないと判断しています。

 近時の裁判例は、意識障害とCT・MRIの画像所見の2つを重視して、脳外傷による高次脳機能障害の有無を判断しており、この裁判例もその傾向に沿うものと評価できます。
裁判所 大阪地裁平成30年9月10日判決(控訴中)(自保ジャーナル・第2033号)
争点と判断  被害者が、原付自転車で運転中、右側後方から来た自動車に接触されて転倒した交通事故です。
 被害者は派遣社員の44歳女性でした。
 急性硬膜外血腫、びまん性脳腫脹、頭蓋底骨折及び顔面、骨骨折等の傷害を負い、約2年後に症状固定となり、自賠責保険で高次脳機能障害が後遺障害等級第5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することのできないもの」に認定されました。
 被害者は、自賠責保険の認定結果を前提に裁判を起こしました。
 裁判所は、被害者には、事故直後に重大な意識障害があったこと、頭部MRI検査においても右側頭葉外側から内側(海馬)にかけて外傷性変化・萎縮が認められるとしつつも、他方で、WAIS-Ⅲ及びリバーミード行動記憶検査の結果がほぼ正常である、入院中に高次脳機能障害に対するリハビリは行われていない、FIM評価においても認知項目については問題解決のみが「6」であり、その他の項目は「7」であった、後遺障害診断書にも高次脳機能障害は記載されていないなどの理由から、交通事故により高次脳機能障害が残存したこと自体は否定し得ないものの、その程度は極めて軽微であって、それのみでは第12級かそれに満たない程度のものであると判断しました。
コメント  自賠責保険における第5級2号の認定結果が、裁判で覆されて第12級に下がったという事案です。

 WAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査)は知能(IQ)の検査、リバーミード行動記憶検査は、顔や名前、道順、約束など日常生活に近い場面を想定して行われる記憶検査です。
 高次脳機能障害は、知能や記憶が正常でも、遂行機能障害や社会的行動障害が現れるという特徴がありますので、知能や記憶の検査がほぼ正常だったからといって、遂行機能障害や社会的行動障害もないとは言い切れません。

 また、FIM評価とは、日常生活動作の評価法であり、「全介助」が「1」で「完全自立」が「7」と評価されます。
 この検査では、検査項目のうち「問題解決」が「修正自立」の「6」という結果でした。「問題解決」とは、日常生活の中で起こる問題にどう対応するかという課題です。
 この課題の結果が「修正自立」の「6」である場合、日常生活よりも複雑な問題が起きやすい職場では適切に業務を遂行できないおそれがあります。

 遂行機能障害や社会的行動障害が残ると、日常生活は自立していても、就労が難しい、あるいは就労しても長続きしない可能性があります。
 もし、被害者がそのような状態であれば、高次脳機能障害の程度が「極めて軽微」であるとは到底言えません。
 判決文からは、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)などの遂行機能検査は実施していないようですが、もし遂行機能検査を実施して異常が認められれば、自賠責保険で認定された5級2号の等級が、裁判でも維持された可能性があります。
裁判所 東京地裁平成30年7月17日判決(自保ジャーナル・第2032号)
争点と判断  被害者が運転する自転車と加害者が運転する自動車が衝突した事故です。
 被害者は、会社員として勤める36歳男性で、右急性硬膜下血腫、脳挫傷、第12胸椎破裂骨折等の傷害を負い、自賠責保険の後遺障害等級認定手続では、高次脳機能障害、不全四肢麻痺、構音障害等が「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」として後遺障害等級3級3号、右肘関節の機能障害が「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として第10級10号、歯牙欠損等が「10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」として第11級4号、脊柱の変形障害が「脊柱に変形を残すもの」として第11級7号、肋骨の変形障害が「ろく骨に著しい変形を残すもの」として第12級5号、左鎖骨の変形障害が「鎖骨に著しい変形を残すもの」として第12級5号にそれぞれ該当するとして、全体として併合第2級に認定されました。
 被害者は、自賠責保険の認定結果を前提に裁判を起こし、裁判では、将来介護費が争点の一つとなりました。
 裁判所は、被害者には依然として記憶力の低下、対人関係がうまくとれない、仕事が継続できない等の状況にあるほか、左半身の不全麻痺等による歩行困難や右肘の拘縮による関節可動域に制限があるため今後将来にわたって日常生活において家族による一定の介助や看視が必要であると認められるとしつつ、被害者の状況は、リハビリ治療の効果もあって、スプーン等であれば自分で食事をとったり、ボタン等がない服について時間はかかるものの着替えをしたり等できるほか、一定距離であれば杖等を用いて独立で歩行することも可能であり、リハビリ通院等の慣れた経路で遠距離でなければ付添なく電車に乗ることもできる等の改善も認められる、このような被害者の症状の改善状況に加えて、被害者がその父母のほか、姉と同居していることなどを考慮し、その将来介護費用は日額4,000円が相当であると判断しました。
コメント  高次脳機能障害が後遺障害等級第3級3号とされ、同じく将来介護費用が争われた大阪地裁平成29年2月8日判決が日額6,500円を認めたのに対し、本判決は、高次脳機能障害が3級3号の事案でも、将来介護費用を日額4,000円が相当と判断しました。
 被害者は、3級3号と認められた高次脳機能障害、不全四肢麻痺、構音障害のほかに、右肘関節の機能障害、歯牙欠損、脊柱の変形障害、肋骨の変形障害、左鎖骨の変形障害など多数の身体症状が残存しました。
 判決によれば、「スプーン等であれば自分で食事をとったり、ボタン等がない服について時間はかかるものの着替えをしたり等できるほか、一定距離であれば杖等を用いて独立で歩行することも可能」とありますが、逆に言えば、箸を使った食事やボタンのある洋服の着替え、長い距離の歩行といった場面では介助が必要であることが読み取れます。
 そうすると、同居する家族の介護の負担は相当に重いことが想像できます。
 食事、更衣、歩行といった日常生活動作(ADL)ですら家族の介助が必要となる場面があることを考えると、もっと高い将来介護費用が認められても良いのではないかという印象を受けます。