交通事故に遭われた皆様へ

はじめに

交通事故で亡くなった被害者のご遺族の方々や、怪我をされ後遺障害を負った被害者の皆様。心よりお悔やみ申し上げます。
 被害に遭われた苦しみは大変なことであろうと思います。その苦しみに加え、収入が途絶えたり、あるいは減ってしまったため、将来に大きな不安を抱えていることと思います。このような状況であれば、事故を起こした加害者に対して損害賠償を請求したいと考えるのは当然のことです。

示談書にサインする前に!

 もっとも、実際は加害者側が加入している任意保険会社の担当者が示談交渉の窓口となり、こちらから特に請求しなくても示談書を持ってきて、「このたびはご愁傷様でございます。ご遺族の方にお支払いできる金額は、基準では○○円となります。」とか「おたく様の怪我の程度からしますと、、基準では○○円です。」と説明して、あなたに「これにハンコを押してください。」と署名・押印を求めてきます。
 ここで、たいていの方が「そんなものか…」と思って、示談書にハンコを押してしまいますが、保険会社が提示する示談金額が低い場合がありますので、要注意です
 もし、あなたが不用意に示談書にハンコを押すと、大変なことになってしまいます。

不当に低い金額で示談しないためには!

 では、保険会社が提示する示談金額が低いとは、どういうことでしょうか?

 一言で言えば、保険会社が提示する示談金額は、一般的に裁判所で本来認めてもらえるはずの金額より低いため、ここでハンコを押してしまうと、裁判所で本来認められるはずの金額よりも低い金額しか賠償してもらえないということになってしまうのです。

 これは、保険会社が被害者の方に示す示談書の金額(保険会社基準)は、我が国の裁判所が認めている正当な賠償額(裁判所基準)よりも低いためです。

保険会社との交渉は容易ではありません!

 裁判所基準と保険会社基準が違うことはご理解いただけたでしょうか。

 次に、それではあなたが保険会社から提示された示談書にハンコを押すのを思いとどまったとします。しかし、だからといってすぐに裁判所基準の正当な賠償額がもらえるわけではありません。保険会社は、裁判所基準での示談には応じないことが多いからです。

 では、どうすれば裁判所基準で損害賠償を請求できるのでしょうか?

 まず、一番確実な方法は、裁判を起こすことです。裁判であれば、損害賠償額は裁判所基準で決めてもらえます。しかし、裁判には法律の知識が必要なのはもちろんのこと、交通事故訴訟は科学的、医学的専門的知識を要します。ですから、一般の方々が交通事故の損害賠償請求訴訟を自分ですることは容易ではありません。

損害賠償の請求は弁護士に頼んだほうが安心です!

 裁判所基準で加害者に損害を賠償してもらうには、弁護士に依頼するのが安心です。弁護士に依頼すれば、交渉や裁判は全て弁護士が代理しますので、被害者の方は治療やリハビリに専念でき、精神的・肉体的な負担を軽くすることができます。
 また、弁護士は過去の裁判例や損害賠償の法律理論を駆使して、保険会社と交渉しますので、多くのケースで金額がアップします。

費用倒れの心配はありません!

 そうはいっても、交通事故と一言で言っても事案ごとにケースバイケースなので、弁護士に頼んだら必ず金額が上がるかといえば、残念ながらそうとはいえません。そうすると、もし依頼する前と金額が変わらなかった場合、弁護士費用だけがかかって手元に入るお金が減ることになってしまい、何のために弁護士に頼んだのかわからなくなります。

 そこで、当事務所では、弁護士に依頼しても金額の増加が見込めない場合には、相談の段階でお知らせし、費用倒れにならないよう配慮いたします。

相談が遅くなると手遅れに…

 もっとも、弁護士に相談する時期は、示談する前であればいつでもいいというわけではありません。事故直後に病院で検査を受けなかったため、後遺障害が認められないケースもあるからです。

 私が以前担当した事件では、手首を怪我した被害者が事故から半年が経過してから初めてMRI検査を受け、MRI画像には異常所見が認められましたが、相手方の保険会社は、「事故後半年の間に手首を痛めたに違いない。」と争ってきた事案があります。

 また、事故態様や過失が争いとなる事案では、早期の証拠収集が大変重要となります。これも以前に私が担当した事件ですが、事故で壊れたバイクを被害者の家族が捨てようとしたところに、幸運にも捨てる前に相談に来られ、バイクは証拠となるから捨てないようアドバイスをすることができました。後に裁判となり、バイクのスピードが争点となりましたが、バイクが残っていたことから、その破損状況から衝突時の速度を割り出すことに成功しました。

 ですから、交通事故後できるだけ早い段階で相談しないと、後に裁判となった場合に手遅れとなるおそれがあるのです。

きちんと損害を賠償してもらうためのポイント…早めの相談!

弁護士費用は…

 初めて弁護士に事件を依頼する場合、一体いくら費用がかかるのか不安に思う方が多いようです。

 そこで、当事務所では、相談の段階で、事前に弁護士費用の見積りをお渡しいたしますので、安心して依頼できます。

 弁護士費用Q&A

 当事務所の弁護士費用のご説明

交通事故の裁判例・研究

 交通事故に関する最新の裁判例や研究を随時紹介していきます。
 脳外傷による高次脳機能障害の裁判例・研究は、別のページで紹介しています。

糖尿病と素因減額

 「素因減額」とは、交通事故による損害の発生及び拡大が、被害者自身の素因(要因)に原因がある場合に損害賠償を減額することをいいます。素因には、被害者の精神的傾向である「心因的素因」と、既往の疾患や身体的特徴などの「体質的素因」の2つがあります。

 内臓系疾患には、様々なものがありますが、例えば、糖尿病は、長年の生活習慣によって誰にでも起こりうる病気です。糖尿病にかかった人が、交通事故に遭った場合、糖尿病を理由に損害賠償を減額されることがあるのでしょうか。

 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができるとされています。この素因減額の法理は、最高裁第1小法廷平成4年6月25日判決によって初めて認められました。

 加害者側から被害者の糖尿病が素因として争われた裁判例を見ると、多くのケースでは、素因減額は否定されています。

 これに対し、統計的には少数ですが、糖尿病がきっかけとなって関連症状が発症し、その結果、治療が長引いたり、後遺障害や死亡に影響を与えたというケースでは、裁判所は、糖尿病による素因減額を認めています。
 特に、褥瘡は、糖尿病に罹患していると発症しやすいため、治療費のうち褥瘡に関する費用の限度で素因減額をされる傾向にあります。

 糖尿病と素因減額に関する近時の興味深い裁判例として東京地裁立川支部平成28年9月29日判決があります。

 加害者側は、被害者には重度の糖尿病の既往症があり、事故後の入院のうち当初の14日間は専らその治療のためで、事故と因果関係はないとして、この分の入院雑費、休業損害及び入通院慰謝料は減額すべきであるか、仮に因果関係が認められるとしても素因減額をすべきであると主張しました。
 これに対して、裁判所は、被害者は入院当初の血液検査で糖尿病と初めて診断されたものの、重度ではないこと、交通事故による怪我の手術が全身麻酔下で3時間以上を要するリスクの高いものであったことから、その手術を無事に実施するためには糖尿病の治療が不可欠であったとして、糖尿病の治療も交通事故に伴う治療の一環であったと評価し、交通事故との因果関係を認め、糖尿病による素因減額も否定しました。

 このケースでは、糖尿病が被害者の交通事故による症状や後遺障害そのものに影響を与えたわけではなかったことから、素因減額が否定されたものと理解できます。

 なお、被害者が生来から糖尿病なのか、生活習慣によって糖尿病になったのかという点は、素因減額の考慮要素とされていません。
 心情的には、生来から糖尿病であった被害者に対して素因減額をすることは気の毒にも思われますが、裁判所は、素因減額の判断において、糖尿病の発症原因を考慮しないのです。